役職定年という言葉。
私が入社した頃には、ほとんど聞いたことがありませんでした。
それもそのはず、1990年代から大手企業を中心に広まり始めた制度なんだそうです。
ここで問題となるのは、役職定年になった後、何をモチベーションとして会社に勤めればいいかということ。
ここでは、役職定年を迎えるにあたって意識しなければならないことに焦点をあててみたいと思います。
役職定年とは?
まず基本的なこととして、「役職定年」とは何を指すでしょうか?
これは、定年を迎える60歳よりも前、一定の年齢に達したタイミングで管理職から離れることを言います。簡単にいってしまうと、役職がなくなり平社員になるということです(企業によって、特別な役職になるケースもあります)。
厚生労働省が行った「賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によれば、大企業の約半数が役職定年制を導入しています。今では、従業員数が100人程度の企業でも導入されています。なかなか厳しいものですね。
役職定年の中身はと言うと、役職手当がなくなり基本給だけになるというケースもあれば、そこまでではないが大幅に減額されるというケースもあります。
データ上では、「役職はなくなっても、給料は据え置かれる」というところもあるようですが、私は出会ったことがありません。一度探してみたいと思っています。
また、対象となる役職も企業によってさまざま。ほぼすべての役職がなくなるというケースもあれば、部長職以上のみというケースもあります。
年齢は55歳が最も多いものの、57~8歳という企業もあります。
ぜひ一度、自社の人事規定などを調べてみることをおすすめします。
役職定年が抱える問題
さて、役職定年が一般化していく中、「それは困る!」と悲壮感を漂わせる人が増えているといいます。その問題点として最大なのが、「一番お金が必要なときに、給料が減ってしまう」という点です。
近年は晩婚化が顕著であり、それに伴い子供を産む年齢も高齢化しています。私たちが子どもの頃、女性が30歳を超えると「高齢出産」と呼ばれていましたが、今では35歳以上となっています。これは、医学の進歩もありますが、出産の高齢化が顕著であることとも関係しています。
また40歳を超えて妊娠する女性も決して珍しくなくなってきました。ご主人が年上だという場合、50歳を超えて子を持つというケースも増えています。こうなると、子どもが独り立ちをする前に役職定年を迎えることになってしまいます。
55歳はどんな家庭状況か?
40歳で子どもを授かったとします。
この場合、55歳の時に子どもは15歳。高校に入学するタイミングということになります。
高校から私立に行くという子どもは多くおり、授業料という意味では、ここから高額になっていく時期でもあります。
さらに今は、大学全入時代とも言われ、多くの子どもが大学生になることを当然と考えています。親としては、「大学を出るまでは学費を払ってあげたい」と考える方も多いでしょう。こうなると、子どもが大学を卒業するのは22歳。40歳で生まれた子どもは62歳まで教育費がかかり、役職定年で給料が減った中、大学の学費を払わなければならないことになります。
逆に考えてみましょう。
役職定年を迎えるまでに子どもが大学を卒業するには、55歳ー22歳で、33歳までに子どもを産み終えなければなりません。厚生労働省が行った調査では、男性が第一子を持つ平均年齢は31.1歳。その後、何人かの子どもを持つことを考えると、33歳という年齢はかなり厳しいものとなります。
役職定年1年目に起こる、さらなる悲劇
さて、「これからお金がどんどんかかる」というタイミングで給料が減ってしまうことはお分かりいただけたかと思います。でも、もう一つ、重大な不幸があることは意外に知られていません。それが税金です。
サラリーマンの場合、所得税は給与から差し引かれて支払うケースが多く、あまり意識する必要はないのかもしれません。ただし、住民税は、事情が違います。同じく給料から引かれる状況に変わりはありませんが、その起算は「前年分の所得」が対象になります。つまり、減額された給与から、最高給与だったときの住民税が引かれることになるのです。
そのタイミングで、子どもの受験、入学が重なるわけですから、実に苦しい1年となってしまいます。ちなみに、今は、大学入試にかかる費用の相場は、30万円だと言われています。さらに、滑り止めの入学金を支払った上で、本命に行くとなると、数十万は無駄になりますので、これを考えるだけでも頭が痛くなります。
50代の人で、役職定年を考慮して住宅ローンを組んだ人はごく少数
晩婚化したことで、マイホームを購入する年齢もあがりました。住宅ローンは最長で35年。
「定年後には払いたくないから、60歳で完済できるようにしたよ」
という声は聞きますが、
「役職定年を意識した」という声はまったく聞きません。中には、「ローンを組む時点では、自社に役職定年という制度がなかった」という人もいて、「老後資金を早々に食い潰すことになりそうだ」と、顔面蒼白になっている人も少なくありません。
大黒柱としての威厳が・・・と落胆する人々
最近の若い世代は、家庭の中にも男女平等が当たり前となっている人が多くいます。ですが、私たちの年代は、男性優位が当然であり、その代わり大黒柱としての役割は男性が担うというのが主流でした。
ところが、役職定年になったことで異変が起きています。
私の周りには、奥さんに「パートの時間を増やしてくれ」と言ったところ、
「会社にいいようにこき使われてきて、55歳で給料を減らされるなんていい加減にして!」
と激怒された人がいます。「一生苦労はさせない」とプロポーズし、奥さんに寿退社をさせた経緯があり、立つ瀬がないと意気消沈しています。
また、別の例では、奥さんが子育てをしながらもキャリアを積んで来た結果、役職定年のない奥さんよりも給与が低くなったとプライドをズタズタにされた男性もいます。奥さんは「そうゆう時代だからしょうがない」と言っているのですが、なかなか認められない(認めたくない)男心もあるようで、大きなダメージを受けています。
仕事のモチベーションもなくなる
55歳で役職定年を迎えると言うことは、出世をするチャンスも短くなったことを意味します。これまでであれば、50代後半まで会社の経営に関わることを目標にできたのですが、55歳定年となると50歳程度であきらめなければなりません。
部長以上だけに役職定年がある企業では、「45歳で部長になれないのであれば、課長にとどまった方が賢明」などと、早々に出世コースから離脱する人もいます。
こうなると、40代のうちから仕事のモチベーションがなくなってしまい、ただ会社に行って業務をここなすだけになってしまう人も少なくありません。60歳で定年した後も継続雇用で65歳まで働くとすると、あと20年もあるにもかかわらずモチベーションがないのは厳しいものです。
お金と心の問題をクリアするには副業しかない
何とも悲惨な役職定年ですが、これを乗り越えるには、副業をもつのがベストな選択だと思います。
若い人ならば、「会社が面白くないから辞める」という決断もありですが、50歳まで会社勤めをしたのなら、私はその安定は捨てるべきではないと言い切ります。
その理由は退職金にあります。一度、退職金規定を見てください。
「60歳定年を迎えて退職金を受けとるのであれば満額支給。それ以前の希望退職の場合は6割支給」などの規定を設けているところが多くあります。仮に、60歳定年時に退職金を2000万円もらえる場合、50歳で退職すると、勤務期間が短くなることでマイナス500万円。さらに、6割になることで900万円となってしまいます。実に半額以下です!
これはあまりにももったいない!
父親としての威厳を保ち、子供を無事学校に通わせ、老後に備えて退職金を満額もらうことを考えれば、途中退職はありえません。
しかし、サラリーマンしかやっていないのに、副業なんてできないよ。そんな風に思う人もいるかもしれません。その点はご安心ください。あなた自身は気づいていないかもしれませんが、これまで培ってきたスキルは、大きな財産になっているケースがほとんどです。今の30代は就業年代に入ったときには就職氷河期となっていたため、正社員になれなかった人が多くいます。そんな人から見れば、正社員としてやってきたことだけでも大きなノウハウを持っているわけです。もちろん、それ以外のスキルもすべて強みとなります。
ただし、副業をする時間は限られていますので、できるだけ早くスタートすることは必須です。副業を始めて、すぐに十分な稼ぎを作り出せる人は限られています。やはり、それなりの時間はかかります。
前述しましたが、役職定年を受けた初年度が税金面で非常に厳しい時期です。ここで、十分な補填ができる状態にしておくことを最初の目標とすべきです。
さぁ、すぐにでも、副業することを考えてください。